チャットモンチー BEST~2005-2011~(初回生産限定盤)(DVD付)


甘い手
かなしい、さみしい、つらい。そういう負の感情はある時点で言葉や行動によって外に出してあげないと、つもりつもったものがふとした拍子に溢れ出して止まらなくなってしまう。五年前に一度大きく心身のバランスを崩してしまったことがあって、そのときからそれについてはずっとわかっていたつもりだったのだけれど、少し油断してしまっていたらしい。
自分を騙して偽って気を紛らわせているだけだった。それでうまくやっていけるとは思っていなかったけれど、しばらくの間はそれでもつかな、なんて思っていた。
直接触れられないものにばかり焦がれるふりをしていたのは、結局は自分を守るためだった。あたたかい場所で、子供のように手に入らないものをねだることはとても楽だったし触れることが無い分傷つくこともなかった。

ほんとうにほしいものは触れようと思えば触れられるのに決して自分のものにはならないものばかりで、そのことを考えるたびにしんでしまいたくなるよ。
一度触れてしまうとそのあたたかさを忘れることは出来ない。そしてその記憶は、寄生虫のようにゆるゆると身体を侵食しつづけ、恐らく死ぬまで続いていく。それを心地よいと感じるか、否か。甘い毒。優しい地獄。
重くなった身体を引きずる。そしていつか指先の記憶が曖昧になってもそれは私を支配し続ける。


冬の話
ただそばにいて笑ってくれるだけで良かったのにな。それだけで良かったのに。それだけ私には必要だったのに。

理不尽なことばっかりだ。



眠るのがこわい。


あなたを忘れる時間がない
いまでも夜中にチャットモンチーを聴くと涙がとまらなくなる。
本当はまだ全然立ち直ってなんかなくて、開きっぱなしの傷口からはえんえんと固まることのない透明な血が流れ続けているような気がする。それはいままでもそうだし、たぶんこれから先もずっと。内臓を全部奪われて空っぽになった入れ物の身体だけを抱えたまま、生かされてるような喪失感。
三人のチャットのライブが大好きだった。もう二度ときらきらの幸福感で満たされていたあの場所に戻ることはできない。

ほんとうに、五年前に戻りたくて仕方がないよ。こんなに好きになれる音楽にこれから先出逢える気がしない。たかが音楽って笑われるかもしれないけど、比喩でも何でもなく私にとっては三人の音がすべてだったんだよ。


こんなに悲しい夜でさえ
やっぱりお腹はすくのだから
私はまた人を好きになるのでしょうか


まだ時間がかかりそうな気がしている。
奪われた内臓の代わりに残された入れ物の身体に何の価値もないようながらくたを詰めて自分を騙しながら生きていくことと、空っぽのまま微かに残るそこにあったはずの「何か」の名残を抱えたまま生きていくことのどちらかを選ばなければ。いい加減覚悟を決めないと、今のままじゃまっすぐ立つことすらままならない。
少し前の私ならたぶん後者を選んでいた。でもいまは価値のないように見えるがらくたたちがいつかちゃんと輝いてくれるのなら、にせものの幸せに満足したふりをしばらく続けるのも悪くはないのかも知れない、と思う。
磨き続けたらいつか光るなんて嘘っぱちかもしれないけれど、もう一度本気で信じてもいいかなっていう気も少しはしてるんだよ。いまのふたりはとてもまっすぐだから。もう少し、もう少しだけ。

いまを放棄して昔立っていた幸せな場所だけを見つめ続けることは、とてもお手軽なわりに案外満たされた気持ちを与えてくれるからやっかいだ。過去の栄光は麻薬みたいなものだと思う。だって過去は裏切らない。でもいつまでもその温かさにしがみついたままでいたらきっと、未来どころか今すら見失ってしまう。
悲しいけれど手放さなければいけない。もう少し離れた場所へ行かなければ。本当に大切だから、余計に過去のせいにして未来をあきらめるなんてことはしてはいけないんだよ。

頭ではわかっているつもりだよ。